株式会社エマリコくにたち

拝啓、うまい!に背景あり

社長のBLOG

2021.11.27

地に足のついた商売とは?

拝啓 東京農業を応援いただいている皆様

『人間はこんなものを食べてきた』(小泉武夫著)に、料理と調理は異なる、という概念が示されています。

なるほど。
私たちは無意識に使い分けているような気がします。
飲食店ビジネスでは、料理長とは言いますが調理長とは言いません。一方で、調理工程という言い方をしますが、料理工程とはあまり言いません。ちょっと不思議な使い分けです。

同書によれば、「調理は総論的で、料理は各論的であるのかもしれない」とし、料理という概念は調理のなかに内包されているということです。

これをもう少し私流に解釈すると、誰かの喜びを想像して行うことが料理で、一方で食べ物を扱う作業全般を調理と呼んでいる、ということではないかと思います。

ちょっと余談ですが、同書では、動物を仕留めてきて、そのままでは食べられないから解体する、それが調理の始まりだろうと書いています。一方で、アライグマやサルには、食べ物を水や海水で洗う動作をするものがいて、これももしかしたら調理と呼べるかもしれないという。
なるほど、とすれば、調理は動物もするが、料理は人間しかしないという言い方できるかもしれません。

人類はより美味しく食べるために、いろいろな技術を発展させてきました。
そのために尋常ならざる努力をしてきたというべきでしょう!
当社の飲食店の厨房には、電子レンジはもとより、真空パックの機械があったり、大きなフライヤーがさも当然のように居座っていて(Dr.Fryという油のなかの空気を抜く装置までついている!)、なんというか、すごい進化をしてきたものです。
そして、調理の技術がこれからどんな風に発展していくのかも興味深いところです。当然ながら、技術は食文化と表裏になっているので、技術が変われば食文化も変わっていくことでしょう。

で、話を戻すと、私たちの厨房で日々やっていることは、料理であって、単なる調理ではないと断言できます。
誰かの「美味しい!」のために、食材に手を加えていく。そういう仕事です。

これは流通(小売店)の部門でも同じです。
流通の現場では食材の形をあまり変えたりはしませんが、それでも、誰かの「美味しい!」のために商品を運び、販売する。想像力が伴っているわけです。

ただ、現代では、想像力が豊かすぎるところもあるのかなあ、と感じるときもあります。料理や流通の目的が壮大になっています。

環境のために農業が必要とか、都市の利便性のためにこのビジネスが必要とか、そういう目的のために流通業や飲食業、あるいは新たに畑を始めるケースも多くなっているようです。
それはまさしく現代社会で必要とされていることではあります。
エマリコくにたちも、「まちなか農業は地域の役に立つ」という信念のもと、それを支えるために創業しました。

けれども。
10年前の創業のときから、エマリコくにたちのミッションは2つが並列です。
ひとつは「まちなか農業を次代につなぐ」ですが、もうひとつは「都市市民の楽しい食卓のサポート」
これは両輪が絶対に必要なのです。

地元を盛り上げたり、日本社会をよりよくしていくことは大事なことですが、それだけを考えているのでは、日々やっていることがふわふわとしたものになってしまいます。
具体的には、飲食店の厨房でいえば、特定の食材を使うことが目的化してしまったりします。
つまり、料理をするのではなく、調理するだけになってしまう。

目の前のお客様の「美味しい!」のために汗をかく。そういうシンプルな努力の方向性。
それが地に足のついた商売だろうと思っています。
私自身は、その両輪がないと健全なチームを作る自信がありません。壮大な目標は大事ですが、それだけでは1日1日を頑張っていくのはしんどいですから。

石器時代の人間も現代の人間も、食べ物には美味しさや楽しさを求めてきました。
『人間はこんなものを食べてきた』という本のタイトルになぞらえれば、「人間はより美味しいものを食べてきた」のです。
そんな普遍的な欲求を無視して食べ物を扱うのはリスキーです。

あくまで「美味しい!」をキックにして、社会を変えていく。
そういうあり方が食べ物を扱う企業には必要なのではないでしょうか。

菱沼 勇介(ひしぬま ゆうすけ)
プロフィール

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株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。

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