株式会社エマリコくにたち

拝啓、うまい!に背景あり

社長のBLOG

2020.02.10

原価率50%論争~飲食店のこと

拝啓 東京農業を応援いただいている皆様

いま話題の「いきなり!ステーキ」で一瀬社長の直筆の張り紙がお店に掲示されたのは記憶に新しいところですが、早くも新しい内容が掲示されたとのことです。
そのなかでは、いきなり!ステーキの創業の原点や同社がステーキ文化を作ってきたことを語っているのですが、このような記述も。
【他の競合の原価率は30~40%と推察するが、当社は50%以上】
うーん、なるほど。

実際のところ、いきなり!ステーキのお肉はかなり良質なのかもしれません。(私、ステーキには詳しくない。)
もっとも、いきなり!ステーキのこのようなプロモーションの方法については、ネットにいろいろな論評が転がっているので、ここで言うつもりはないです。
しかし、原価率という言葉が、ここまで一般の方々の口に膾炙するというのは、最近の傾向なのかなあと思います。

ということで、一般の消費者の方に向けて、「原価率」とは何かということについて、ちょっとまとめておきたいと思います。

超基本ですが、まず、原価率とは「原価、割る売上」ですね、ハイ。
材料費をどれだけ使ったかってことです。

さて、原価率が高い、イコール、よい店とはまったくならないわけですね。
手前みそで恐縮ですが、「しゅんかしゅんか」は自前の集荷を行っていて、だから野菜のコスパがよい(品質に比べて高くない、という意味です)。その野菜を使う「くにたち村酒場」も品質に比べて安い。
長年の試行錯誤あっての仕入ルートなわけです。

そういう観点からは、原価率が高いと宣言する店は、仕入れ方法の工夫がない、と宣言しているようなものかもしれません。
あるいは、原価率は次のようなことでも高くなります。
・原価率はレシピ上の理論原価率と、廃棄や調理時の誤差などを含めた実際原価率があります。実際には廃棄が多いのかもしれません。
・原価率が高いと、調理技術、接客や雰囲気、その他利便性に対するコストはかけていません、と宣言しているようなものかもしれません。ふつうはすべてのコストが価格に収まるようにソロバンをはじいているわけなので。
・セールを頻繁に行うと原価率は上がります。現に、いきなり!ステーキのプロモーションはセールが多いです。セールしたうえで原価率が上がっているのだとしたら、それは広告宣伝費的な意味合いのものです。セール外のタイミングで来店した人は結局40%くらいのものを食べていることになります。

とまあ、「原価率が高いんだ」ということは、自慢になならないケースもかなり多いということですね。

いきなり!ステーキの主張のベースには、業界特有の、「ステーキの美味しさは原価の高さに比例する」ということがあるのでしょう。つまり、「仕入れルートの工夫にはあまり選択肢がない」し、「調理人にかけるコストはあまり関係ない」ということですね。サイゼリアが食材をイタリアから直輸入しているように、仕入れルートは飲食店経営者の腕の見せ所なのですが、牛肉という食材のはそういうのが難しい世界なのかもしれません、詳しくないので分かりませんが。でも、それはお客様にも分からないことなわけで。
どうも、いきなり!ステーキの感覚はは飲食店というより、ほぼ小売店ですね。(私はどっちの脳も持っているのですが(中途半端!)、小売店として分析した方がしっくりくる。)

そもそも論、というか、ここが主張したい本題ですが、「お客様にとって飲食店はサード・プレイスだ」ということを忘れてはいけないと私は思います。
サード・プレイスという言葉は、スターバックスが有名にしたんじゃないかと思いますが、家庭でも職場でもない、第3の癒される/楽しめる場所ということですね。
そういう場所に「原価率」などという頭を使わないといけないワード、ましてお金関係の用語をぶちこんではいけないというのが私の信念です。

なんとなれば、日々の仕事で原価率について頭を悩ましているサラリーマンは多いわけで(私も右に同じ、サラリーマンじゃないけど)、食事をするときまで思い出したくない。

やむをえずクーポンを配るときも、「10%引き」などよりも、「ワイン1杯プレゼント」という形にします。数字を遠ざけるようにしています。(客単価4,000円でワイン1杯の価格が500円なら、ワイン1杯プレゼントの方がお客様はお得になる。)

これは、当社の飲食店に「都市農業を守るためにご来店ください」と大書はしていてないのと同じです。
当社は「明日の元気をつくる」、そういう飲食店を作りたいと強く願っていますが、難しいことを色々と書いたら、そこはもはや酒場にならないのです。
酒場とは、癒し空間であるというミッションがあるので、店舗運営にいかに凄まじい工夫がちりばめられていようと、それをわざわざ見せる必要はないのです。

菱沼 勇介(ひしぬま ゆうすけ)
プロフィール

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株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。一般社団法人MURA理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度〜2021年度)。

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