株式会社エマリコくにたち

拝啓、うまい!に背景あり

社長のBLOG

2021.08.21

「あえて愛を伝えない」という愛

拝啓 東京農業を応援いただいている皆様

私たちの店頭には、生産者の名前が必ず書いてあります。

私たちも農産物の流通ベンチャーのはしくれですが、そういうベンチャーはふつう、生産者の名前を明示し、そのこだわりもなるべく伝えようとします。
端的にいえば、それは既存の市場流通へのアンチテーゼなわけです。

でも、今回はあえて既存の市場流通ってすごい、という話を書きたいと思います。

連綿と続いてきた市場というシステムには、続いてきただけの理由があります。それをふまえていかないと、私たち新興勢力の新しい提案も砂上の楼閣ということになるでしょう。

ときに、うちの両親が新しい車を買おうとしているのですが、納期がかなり長いらしいです。なぜなら、サプライチェーンで問題が起きて、自動車用の半導体が足りなくなっているからだそうです。
でも、自動車用の半導体でこういうことが起きるのは稀です。

半導体の工場が1日1000個作っていたのに、3カ月後は500個生産になり、半年後に2000個生産になることは普通はありません。

では、農産物はどうか。

今年は長野県産リンゴが遅霜の影響で不作のようなのですが、そういうことはいつもどこかしら起きています。今年の半導体問題みたいなことは、もはや、それが日常です。
そして、収穫量が普通であったとしても、そもそもリンゴがある季節は限られます。半導体工場は365日、安定的に生産してくれるでしょうが……。

そこで、農産物には産地リレーというものがあるのですが、これもなかなか大変。天候が良すぎて抑制栽培の地域の収穫が早まってしまい、通常の作型と同じ時期に出荷されてしまうということも起きます。(当然ながら、本来出るべきだった抑制栽培の収穫期には収穫すべきものは畑にすでにありません。)
そういう農産物の世界において、市場流通というのは大きな役割を果たしています。

こうしたマーケットで大変なのは、まず「探索コスト」です。
もし産地と小売、あるいは産地と外食が1対1で取引しているとしたら、不作だったら別の産地を探し、季節がずれたら別の産地を探し、ということをしなくてはなりません。そして、その産地が信用できるのか、「信用コスト」というのもあります。初めて取引するけど、品質、ほんとうにだいじょうぶ?、ということです。
逆に、産地側にも「信用コスト」があり、この出荷先は信用できるのか(代金が問題なく回収されるのか)という問題が、新しい出荷先と契約するたびに起きてきます。

こうしたコストをなくすには、取引先を最小化しつつ(市場とだけ付き合えばよい)、そして匿名性を持たせることです。
匿名性とは、たとえば外食チェーンが顧客に「長野産のリンゴ」と約束していたら、それを調達しなくてはならなくなります。激流のような農産物マーケットで、それはかなりのコストです。しかし、メニューに「リンゴ」とだけ書いて匿名性を持たせれば、今月は福島産にしておこうか、ということができます。
そこそこの品質のリンゴ、ということであれば、市場はまず間違いなく調達してくれます。

『マイナビ農業』での拙コラムで、こういうたとえを出しました。
小学校の工作の授業で新聞紙が必要だとします。このとき、先生が児童に、「毎日新聞の古新聞を持ってきてください」と言ったらどうなるでしょうか。児童たちはかなりの手間ひまを強いられることになります。
しかし、新聞であればなんでもいい、ということになれば、さほどの苦労なく持ってくることができるでしょう。

いろいろな農家さんの固有の作物が食卓を飾れば、それは楽しいことでしょう。
しかし、農産物という特殊なマーケットでそれをやろうとすると、かなりの手間ヒマを強いられることになります。まあ、お金持ちは手間ヒマのかかったシステムに乗っかることができるかもしれないですが、多くの国民はそうではないでしょう。
青果市場というシステムは、安価に美味しいものを提供するという素晴らしい機能を持っているのです。
市場の匿名性は、農家のやりがいを作りにくいというデメリットもありますが、そこに愛がないわけではない、と思います。「あえて愛を伝えない愛」がそこにあるのではないでしょうか。

さて、それをふまえ、私たちが青果市場に対抗して推し進めている地産地消システムについて考えないといけません。

匿名性がない流通(農家の顔が見える流通)は、地産地消システムと、非地産地消システムの2つに大別できます。

そうしたときに、「探索コスト」と「信用コスト」はどうでしょうか?
地産地消システムは、地元ということで物理的に近いので探索コストは低いです。また、信用コストも低いです。売り手も買い手も地域コミュニティに属しているので、そうそう下手なことはできないからです。
そして、中間の物流費が低いので、その分を情報を伝達するコストに充てることができます。情報というのは、農家さんの工夫であったり、地域の伝統であったり、そういうことですね。あるいは、消費者のニーズを生産者に伝えるという逆方向の情報もあります。
つまり、地産地消システムの美点とは、コストがさほど高くない範囲で(一般の方が手の届く範囲の価格で)、顔の見える流通ができるということになるでしょう。

ただ、どんなこともデメリットもあります。
産地が分散していないので、だれかが不作だとだいたい他の人も不作だということですね。台風やひょうが直撃すると、まじで売る物がなくなります。
いいことずくめではないです。

もう一方の非地産地消システムについてですが、この分野のベンチャー企業さんはすごいですね。「探索コスト」と「信用コスト」がものすごく高いのにやっているということですから。(オイシックスはもうベンチャーという規模ではないかもしれませんが。)
なお、最近伸びている産直EC系のベンチャー企業は、この2つのコストを基本的には放棄しています。楽天市場と同じようにプラットフォームを提供しているだけです。これは企業戦略として正しいと思います。

ということで、地産地消システムに話を戻すと、それなりに辛い点もあるのですが、長い距離の運送コストは年々上昇傾向ですし、地産地消システムがこれから時代の最先端になると信じて、この分野で頑張ってきましたし、これからも頑張ります。
もっとも、先に書いたように、地産地消システムと同じかそれ以上に、青果市場システムは優れています。それがなくなることはないです。事実、多摩エリアの農家さんには、市場とそれ以外の流通を併用しているケースも多いのです。

農産物流通には、いろんな方法があって、それぞれメリットもデメリットもある。
流通業者は黒子でよいと思ってはいますが、今日はそんなところが伝わったならうれしいです。

では、また。

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※ 拙コラムへのリンク
「たかが市場、されど市場。青果市場の機能は不滅です」 マイナビ農業 2020.06.01
https://agri.mynavi.jp/2020_06_01_120018/

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菱沼 勇介(ひしぬま ゆうすけ)
プロフィール

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株式会社エマリコくにたち代表取締役。
1982年12月27日生まれ。
農地のない街・神奈川県逗子市に育つ。
一橋大在学中に、国立市にて空き店舗を活かした商店街活性化活動に携わる。2005年に一橋大商学部卒業後、三井不動産、アビーム・コンサルティングを経て、国立に戻る。NPO法人地域自給くにたちの事務局長に就任し、「まちなか農業」と出会う。2011年、株式会社エマリコくにたちを創業。国立市商工会理事。東京都オリジナル品種普及対策検討会委員(2019年度)。

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